青函連絡船の思い出と我が人生航路 456

      駆けずり回る



ブラスバンドで「蛍の光」が奏でられ、テープで結ばれるなか、船が出港する光景はロマンに満ちている。これは客船など限られるもので、一般の貨物船ではほど遠いものだ。


ギリギリの人員で出港作業に夢中で、周囲に目を配る間もない現実がある。まだデッキ(甲板部)は景色や海が見えるが、エンジン(機関部)は閉鎖された中で、何も見えず本当に気の毒である。


乗組員は出入港時が最も忙しく、なかでサードオフィサー(三等航海士 3/O)や、フォースオフィサー(4/O)の、いわゆるボットム オフィサー(末席航海士)時代に、駆けずり回った汗と涙の物語である。


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        ドラフトマークが船の先端にかすかに10cm単位の数字が見える




岸壁とかブイ(浮標)など、バース(係留地)の形態で、少し異なるが入港も出港も、短時間のうちに、正確にしなければならない事が集中した。



入港時には外航船の場合は、検疫、入管、税関等の手続きがすめば、会社関係者は別として、タラップがかかるか掛からない時点で、ステべ(荷役関係 ステべドア)の人達が、チーフオフィサー(一等航海士 C/O)室めざし、駆けつけるのが見慣れた光景だった。



ここでストエージプラン(積荷計画 Stowage Plan)を広げ、細かい揚荷積荷の基本計画を打合せる場である。フォアマン(荷役監督)は、ハッチ別のギャング(沖仲仕の組Gang)の配置や、荷役時間を決定する。



船側の荷役監督を務める全航海士は、この場の事柄を掌握し、疑問や意見があれば確認に、重要なチャンスでもある。もちろん実質的な総監督はC/Oである。


いち早くこの場に顔を出さなければならないが、3/Oにはその前にしなければならない大切な儀式?があった。ドラフト(喫水)の計測で、意外に手間と時間がかかった。1分1秒でも早く荷役にかかりたい状況に待ってはくれない。


F(船首) A(船尾) P(左舷) S(右舷) たかが4カ所の計測であるが、岸壁係留中でも約150メートルの長さの船を、要領よくしても最低2回の、300メートルは走らなければならない。


まだ岸壁からは見やすいが、ブイ係留などで空船に近い夜間に、ブルワーク上方から懐中電灯を照らせ、ドラフトマークを読み取るのは、至難の業である。


反対に満載に近く沈み込んだ船尾の、湾曲部は上から見えず、逆傾斜の梯子をぶら下がり降りての観測である。腕力を鍛えていなければ、死に至る事もあり、されど喫水でもあった。


出港に当たっても、積み切りの最終状況を、確認してC/Oへ報告が要る。中間港ならば残りのスペースに積める量の、余積報告を作成しなければいけない。


出港に備えタイミングを見て、「トライエンジン」と言い、プロペラを回すテストをする。機関部と前もって協議し、2/Oに船尾付近を警戒してもらう。


時にはせっかくの計測値を、失念したり間違ったり、新米のオフィサー泣き笑いの人生のようで、ライナー(定期貨物航路)の特徴だろう。


青函連絡船では貨物重量が少なく、ドラフトやGM等の変化もあまり考慮しなく、ドラフトは参考程度で、しかも喫水計の表示を採用していた。


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        青函連絡船のドック




従ってドラフトマークを観測する航海士は、ほとんど居なかった。たまにドックで計測すればいい方だった。こんな外航船の苦労は無かったが、ドックへ同道した部下の航海士には、基本的なことなので重量計算など、課題を与え指導した。



外航ライナーには比べるほどでないが、青函連絡船も出港スタンバイでの、各種のテストや発航前点検は、航海数が多いので、それなりに忙しかった。


外航船舶で3/Oなどは、なかなか変針の機会が少ないが、青函連絡船では自己の裁量で、避航動作も含め機関使用や、変針のチャンスを与えており、慣れていたメリットもあった。

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この記事へのコメント

mukasinohito
2017年12月16日 22:12
入出港時の航海士の忙しが良く判る記述面白く拝見いたしました。センサーの発達した現在でもドラフト計測は当時と変わって無いのでしょうか、それとも原始的なのが一番信頼できるのでしょうか。
2017年12月17日 23:49
定期航路のあの忙しさは、忘れられません。
この時代ですから、いくらでも正確なものは、出来るでしょうが、コストの問題もあるでしょうか。

少々の波の変動があっても、慣れた航海士は、1センチ単位は普通で、良い状況では0.5センチぐらいまで、読み取れます。
正に航海士冥利でしょうか?
苦しみも楽しみが、人生と同じかもしれません。

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